シュロスバーグの転機理論をサクッと理解！―キャリアコンサルタント養成講座のキホン

本日は頻出「シュロスバーグの転機理論」。
難しく感じがちな理論を、家事の合間に読めるボリュームでまとめました！

シュロスバーグ博士ってどんな人？

• メリーランド大学名誉教授で 成人ライフ・トランジション研究 の第一人者
• 「人は転機にどう向き合うか？」をライフワークに研究
• コンサル会社 TransitionWorks 共同代表として実務支援もバリバリ

“転機”がキャリア相談のど真ん中

就職・育休復帰・転職・退職…私たちのキャリアは 転機だらけ。
クライエントが今どんな転機を経験しているのか、その 主観的な受け止め方 まで丁寧に聴くことがキャリコンの腕の見せどころです。

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覚えておきたい「３つの転機タイプ」

転機タイプ	定義	キーワード	具体例
予期していた転機 (Anticipated)	予定どおり・規範的な出来事	計画的／コントロール可	結婚、卒業、計画的転職、出産、定年退職
予期していなかった転機 (Unanticipated)	突然･非計画・準備ゼロ	コントロール不能／ショック	会社倒産、事故・病気、親族の急逝、望まない異動
期待していたことが起きなかった転機 (Non-Event)	起こるはずの出来事が起こらない	“無い”という喪失感	昇進見送り、結婚できなかった、不妊、プロジェクト中止

ワンポイント
「イベント（起きた）」と「ノンイベント（起きなかった）」の２区分で覚えるとスッキリ！

４つのSで対処資源をチェック！

1. Situation（状況） … きっかけ・タイミング・コントロール度合い
2. Self（自己） … 性格・価値観・過去経験・レジリエンス
3. Support（支援） … 家族・友人・職場・制度
4. Strategies（戦略） … 問題解決・感情コントロール・情報収集 etc.

キャリコン試験ではココがよく出る！

• ３タイプの定義と具体例は 穴埋め問題の定番
• ノンイベント は見落としやすいので要注意！
• ４Ｓモデルとの “組み合わせ問題” も頻出

Ⅰナンシー・K・シュロスバーグとキャリア開発における転機理論の重要性

A. ナンシー・K・シュロスバーグ教授：成人発達と転機研究の先駆者

ナンシー・K・シュロスバーグ博士は、メリーランド大学カレッジパーク校の名誉教授であり、カウンセリング心理学の分野、特に成人のライフ・トランジション（転機）研究において著名な学者です 。彼女は、人々が人生の困難に対処するのを助けることをミッションとし 、転機にある成人を理解し、彼らが必要とする援助へと導くための体系的なフレームワーク開発の必要性を感じ、転機理論を構築しました 。シュロスバーグ博士の学術的貢献とコンサルティングファーム「TransitionWorks」の共同代表という経歴は 、彼女の理論が学術的な探求だけでなく、現実世界での実践的な応用にも深く根差していることを示唆しています。実際に、この理論は転機にある人々を支援する必要性から生まれたものであり 、キャリアコンサルタントにとってその実践的な基盤は極めて重要です。  

B. キャリア開発とカウンセリングにおける「転機」の中心性

キャリア開発の道のりは直線的であることは稀で、本質的に数多くの転機を伴います。例えば、就職、昇進、解雇、転職、退職などが挙げられます 。個人がこれらの変化をどのように経験し、対処していくかを理解することは、効果的なキャリアコンサルテーションの基本です 。シュロスバーグの転機理論は、個人が変化や転機をどのように経験し、それに対処するかを理解するためのモデルを提供します 。重要なのは、単に出来事そのものではなく、個人がそれを「どのように経験し、対処するか」 であり、これはコンサルタントが取り組むべき主観的かつ心理的な側面を指し示しています。したがって、クライエントが経験する転機を特定し、分類し、その主観的な意味を理解する能力は、キャリアコンサルタントにとって中核的なコンピテンシーとなります。  

II. シュロスバーグが提唱する主要な3つの転機タイプ

学術文献や研修資料、特に日本のキャリアコンサルタント養成における資料では、シュロスバーグによって定義された3つの主要な転機タイプが一貫して強調されています 。これらは、キャリアに大きな影響を与えるとされています 。  

A. 予期していた転機 (Anticipated Transitions)

• 定義: 人生の出来事のうち、予期され、計画され、あるいは規範的なものを指します。個人は通常、ある程度の選択の自由、コントロール、または準備期間を持ちます 。  
• 特徴: しばしば発達段階や社会的に認識された節目に関連します。潜在的にストレスを伴う可能性はありますが、「驚き」の要素は最小限です 。  
• 具体例: 結婚、計画的な転職・就職、卒業、高等教育への進学、計画的な退職、子供の誕生、転居など 。例えば、「ある程度自分で選択することができた転機」として、結婚や就職、引越し、子どもの誕生などが挙げられます 。  
• 「予期していた」とはいえ、これらの転機は依然として適応を必要とし、ストレスの原因となり得ます。「不安などはあっても」という記述は、予期が課題を無効にするわけではないことを示唆しています。転機は依然として「関係性、日常業務、仮定、役割の変化」をもたらすため 、キャリアコンサルタントの役割は、クライエントが期待と現実を管理し、新しい役割や日常業務を効果的に乗り越えるのを支援することです。  

B. 予期していなかった転機 (Unanticipated Transitions)

• 定義: 予期されておらず、計画されておらず、しばしば突然発生し、準備の時間がほとんどまたは全くない出来事を指します 。  
• 特徴: しばしば非自発的で、混乱を招き、予期せぬ性質とコントロールの欠如により大きなストレスを引き起こす可能性があります 。  
• 具体例: 突然の失業（例：会社の倒産、解雇）、事故、予期せぬ病気（本人または家族）、近親者の死、自然災害、突然の降格や望まない異動など 。例えば、「自分にはコントロールできない転機」として、親族などが突然亡くなってしまうことや、天災・事故に巻き込まれた場合などがこれにあたります 。失業や病気、突然の異動もこのカテゴリーに含まれます。  
• これらの転機は、個人の安心感や世界観を著しく揺るがす可能性があります。「自分にはコントロールできない転機」という表現が鍵となります。このコントロールの欠如は、主要な心理的ストレッサーです。例として挙げられる出来事（死、災害、突然の失業）は、本質的にトラウマ的または不安定化させるものです。したがって、コンサルタントのアプローチは、この高まった脆弱性に敏感である必要があります。その役割には、しばしば危機介入、情緒的支援、そしてクライエントがコントロール不能と感じた状況で主体性を取り戻す手助けが含まれます。  

C. 期待していたことが起きなかったという転機 (Non-Event Transitions)

• 定義: 予期または希望していた出来事が起こらないことを指します。それは、期待されていたが実現しなかったことに関するものです 。  
• 特徴: 他者には微妙で「見えない」かもしれませんが、内面的には深刻な影響を与え、失望、欲求不満、あるいは人生の目標の再評価につながる可能性があります 。ここでの「出来事」とは、期待が満たされないという認識そのものです。  
• 具体例: 期待していた昇進や昇給がなかった、希望する仕事や部署に配属されなかった、望んでいたにもかかわらず特定の年齢までに結婚しなかったり子供を持てなかったりした、計画していたプロジェクトが実現しなかったなど 。「きっとこういうことが起きるだろう！」と期待していたにも関わらず、その出来事が起きないことが「期待していたことが起きなかったという転機」であり、例えば「今年は昇進すると思っていたのに、昇進しなかった」といったケースが該当します 。また、「子どもが授かれない、昇進するはずがなかった」なども例として挙げられます。シュロスバーグの転機理論では、転機を「予期された出来事の不発生」のような微妙な変化も含むものとして捉えています 。  
• ノンイベントはしばしば、「曖昧な喪失」（他者によって明確に定義されたり認識されたりしない喪失）の一形態を伴います。これは、それらを悲しんだり処理したりすることを特に困難にする可能性があります。ノンイベントの中核は、何かの不在です。この不在は、死別や失業のような具体的な喪失ではないため、「曖昧」となります。社会は、「昇進しなかった」ことに対して、死別に対するのと同じような同情を示さないかもしれません。このような外部からの承認の欠如（は異なる文脈で曖昧な喪失に触れていますが、原理は類似しています）は、内面化された苦痛につながる可能性があります。キャリアコンサルタントは、これらの経験を正当な転機として認め、「実際には何も起こらなかった」からといってそれらを軽視するのではなく、クライエントが目標を再評価し、新しい道を見つけるのを支援する必要があります。コンサルタントによる承認が極めて重要になります。「職業上の目標の喪失や予期された出来事の不発生」のような「微妙な変化」という言葉は、この機微を捉えています。  

3つの転機タイプの比較

以下の表は、シュロスバーグによって特定された3つの主要な転機タイプをまとめたものです。この表は、各タイプの定義、主要な特徴、および調査から得られた一般的な例を即座に比較することを可能にし、学習と想起のための効率的な手段を提供します。特に日本のキャリアコンサルタント養成講座の受講者にとっては、日本語の用語を含めることで、英語の理論と研修で使用される現地の用語との橋渡しとなり、より実践的なものとなります。

転機タイプ	定義（日本語・英語）	主要な特徴	具体例（調査に基づく）
予期していた転機 (Anticipated)	予期され、計画された人生の変化。(ある程度自分で選択することができた転機)	計画的、選択的、ある程度コントロール可能、規範的、驚きの要素が最小限。	結婚、就職、引越し、子どもの誕生、計画的な昇進、計画的な転勤、卒業、退職。
予期していなかった転機 (Unanticipated)	予期せず、計画されていなかった人生の変化。(自分にはコントロールできない転機)	突然、非自発的、しばしばコントロール不能、混乱を招く、準備不足による大きなストレスの可能性。	突然の失業・会社の倒産、予期せぬ病気・事故、親族の死、天災、突然の降格や望まない異動。
期待していたことが起きなかったという転機 (Non-Event)	予期または希望していた出来事が起こらなかったこと。(期待していたにも関わらず、その出来事が起きないこと)	予期された変化の不在、他者には微妙・不可視の可能性、失望・欲求不満、目標の再評価が必要。	期待していた昇進がなかった、希望部署への配属がなかった、特定の年齢までに結婚できなかった、子どもが授かれなかった、プロジェクトが実現しなかった。

III. 広義の分類：「イベント」対「ノンイベント」

A. 包括的カテゴリーとしての「イベント」

シュロスバーグは転機をさらに「イベント」（出来事）と「ノンイベント」に分類しています 。「イベント」には、予期していた転機と予期していなかった転機の両方が含まれます。なぜなら、どちらも実際の出来事や発生を伴うためです 。この「イベント対ノンイベント」という二元的な分類は、変化を捉えるための最初の、よりシンプルな視点を提供します。それは、詳細な予測可能性やコントロールの度合いを掘り下げる前に、「何かが起こったのか、それとも期待されていた何かが起こらなかったのか？」という問いにまず答えるのに役立ちます。この区別は、経験されている変化の性質を理解するための基本です。  

B. 「ノンイベント」の明確な性質

「ノンイベント」は、期待されていたことが起こらなかったというカテゴリーとして単独で存在します 。重要なのは、出来事の  

欠如そのものが転機であり、役割、日常業務、仮定、関係性の変化の原因となるという点です 。転機が役割、日常業務、仮定、関係性の変化によって定義され 、かつノンイベントが転機であるならば、期待された事柄の  

不在は、これらの変化を引き起こすのに十分強力でなければなりません。ノンイベントの転機に関わる心理的な作業は、しばしば期待という内的世界と、それに合致しなかった外的現実とを和解させることを中心に展開します。これには、失われた未来を悼み、自己概念を調整し、成功や人生の道を再定義することが含まれる場合があります。

IV. キャリアコンサルタント養成講座における普及と重要性

A. これら3つのタイプが基礎となる理由

予期していた転機、予期していなかった転機、そして期待していたことが起きなかったという転機という3つのカテゴリーは、クライエントがキャリアカウンセリングに持ち込む変化の大部分を理解するための、包括的でありながら管理しやすいフレームワークを提供します 。このフレームワークは、コンサルタントがクライエントの経験の性質を迅速に特定し、アプローチを調整するのに役立ちます。これらの3つのカテゴリーの明確さと相対的な単純さは、養成講座で非常に教えやすく、適用しやすいものにしています。これらは、学生と実務家のための共通言語を提供します。日本マンパワーのような主要な出版社がシュロスバーグの著作を翻訳し、推進しているという事実は 、その理論が日本のキャリアカウンセリングの現場で価値を認められ、統合されていることを示しています。  

B. 多様なクライエントシナリオに対応できるコンサルタントの育成

これらの明確な転機のタイプを理解することで、コンサルタントは以下のような能力を身につけることができます。

• より的を絞った質問をする。
• クライエントが抱える様々な種類の苦悩（例：ノンイベントの失望感 対 予期せぬ出来事の衝撃）を正当なものとして認める。
• より適切な対処戦略を共同で開発する。 状況を評価する際、「この転機が肯定的か否定的か、自発的か非自発的か、良い時期か悪い時期か」を判断することは、転機を効果的に管理する方法を理解する上で重要です 。転機のタイプを分類する行為は、この評価の前提となります。これらの転機タイプを習得することで、コンサルタントは一般的なアプローチから、よりニュアンスに富んだ、クライエント中心の実践へと移行し、異なる転機が異なる心理的足跡を残し、異なる形の支援を必要とすることを認識できるようになります。  

V. 転機の文脈化：シュロスバーグの4Sモデル概説

A. 4Sモデル：対処資源のフレームワーク

4Sモデルは、特定されたあらゆる転機に対処するために個人が持つ資源を評価するためのシュロスバーグのフレームワークです 。各「S」は以下のように定義されます。  

• Situation (状況): 転機そのものの特徴（きっかけ、タイミング、コントロール、期間、同時発生的なストレスなど）。  
• Self (自己): 個人の人的・心理的資源（例：性格、自尊心、楽観性、過去の経験、価値観、対処スタイル）。  
• Support (支援): 利用可能な社会的資源（例：家族、友人、同僚、組織的支援、ネットワーク）。  
• Strategies (戦略): 転機を管理するために用いられる対処メカニズム（例：問題解決、情動調整、情報収集、リフレーミング）。   シュロスバーグは、転機を乗り越えるために必要なものとして「リソース」を挙げ、その頭文字がすべてSであることから「4つのS」とされています 。  

B. 相互作用：転機タイプの特定と4Sモデルの適用

転機のタイプ（予期していた、予期していなかった、または期待していたことが起きなかった）を特定することは、多くの場合、最初のステップです。その後、4Sモデルを使用して、その特定の転機に関連する個人の資源と不足を体系的に評価します。転機のタイプの性質は、4Sのどの側面が最も重要であるか、または最も挑戦されるかに影響を与えます。例えば、予期していなかった出来事は、「支援（Support）」に大きな負担をかけ、危機管理のための即時の「戦略（Strategies）」を必要とするかもしれません。期待していたことが起きなかったという転機は、特に「自己（Self）」（例：自尊心、見通し）に挑戦し、リフレーミングと目標再評価のための戦略を必要とするかもしれません。 転機の識別は、どのタイプに該当するのか、背景や重大さを識別することが必要であり、その後、対処のための資源として4つのSを点検・活用することが推奨されています 。これは、転機のタイプを特定すること（ステップ1）と、対処のための資源を評価するために4Sモデルを使用すること（ステップ3）を明確に結びつけており、転機のタイプが4Sの評価と活用方法に影響を与えることを示唆しています。例えば、「予期していなかった」失業（状況：否定的なきっかけ、コントロールなし、高ストレス）は、即時の「支援」（例：就職活動のためのネットワークがない）の低さ明らかにし、即時の財政計画と就職活動に焦点を当てた「戦略」を必要とするかもしれません。一方、昇進しなかったという「期待していたことが起きなかった」転機（状況：期待された肯定的なきっかけの欠如）は、強い「自己」（回復力がある）を明らかにするかもしれませんが、キャリア目標を再評価し、失望に対処するための「戦略」を必要とするかもしれません。したがって、4Sの評価は転機のタイプによって調整されます。  

VI. 結論：シュロスバーグの転機タイプをキャリアコンサルティング実践に統合する

A. 3つの主要な転機タイプの要約

本稿では、シュロスバーグの転機理論における主要な3つのタイプ、すなわち「予期していた転機」、「予期していなかった転機」、そして「期待していたことが起きなかったという転機」について詳述しました。これらの分類は、キャリアコンサルタント養成講座において一般的に引用され、キャリアにおける変化を理解するための基礎的な枠組みを提供します。

B. キャリアコンサルタントを目指す者にとっての実践的価値

この理論的知識は、クライエントが経験する変化を理解するための強固な基盤を提供します。それは、キャリアカウンセリングに対して、より構造化され、共感的で、効果的なアプローチを可能にし、クライエントが自身の転機を特定するだけでなく、それらを成功裏に乗り越えるための資源（4Sモデルを介して）を動員するのを助けます。シュロスバーグの転機理論は、大きな転機に直面し悩んでいる人々にとって、即戦力となるノウハウであり、良きナビゲーターとなり得ます 。  

シュロスバーグの転機タイプと4Sモデルを理解することは、クライエントとコンサルタントの双方に力を与えます。クライエントにとっては、自身の経験を明確に表現するための言葉と、自身の苦闘が認知されたフレームワークの中で理解されているという感覚を提供します。コンサルタントにとっては、複雑な状況を分解し、クライエントを建設的な行動へと導くための体系的な方法を提供します。キャリアコンサルタント養成の最終目標は、効果的な実務家を育成することであり、シュロスバーグのような理論は、その実践的な有用性のために教えられています。転機のタイプを理解することで、コンサルタントはより共感し、戦略を立てることができます。クライエントに4Sモデルを教えることで、コンサルタントは生涯にわたる対処ツールをクライエントに提供します。この二重のエンパワーメントこそが、この理論の究極的な価値です。将来の実践において、このフレームワークを多目的なツールとして活用することが期待されます。