ESSAY / DATA / CAREER
考える
「もっと勉強すべき」とは
言いたくない私が、
データと体験から考えたこと
働く女性は、ここ数年で大きく増えました。では、学びはどうでしょう? 公的なデータと、資格の勉強を続けてきた私自身の体験、キャリアコンサルタントとして感じていることを、ひとつにまとめました。
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01 はじめに
まず結論から言うと、私は「女性はもっと勉強すべき」と言いたいわけではありません。
学びは、資格取得やキャリアアップのためだけのものではないと思っています。知らないことを知り、実際に体験して、違う価値観と出会い、人生を少しだけ豊かにしていく。そのための選択肢のひとつです。
私自身は、たまたま資格の勉強がとても合っていました。でも学び方はもっと広くて、読書、音楽、映画、詩や小説、フィールドワーク、趣味、人との関わり、体を動かすこと、動物の様子をじっと観察すること。どれも立派な学びです。
人生には、学びどころではない時期があります。休むことも必要ですし、目標がない生き方に価値がないなんてことはありません。根っこにあるのは「今を生きているだけで十分」という感覚です。
そのうえで、少し余裕がある人には、学び続けることを人生の「うっすらとしたテーマ」にしてみてもいいんじゃないかな、とおすすめしたいんです。
だから考えたいのは「どうすれば女性がもっと学ぶか」ではなく、「学びたいと思った人が、無理なく、自分の意思で学びを選べる環境とは何か」です。学ばないことも選べる環境があって初めて、学ぶことを自分で選びやすくなると思うからです。
映画を見て感動するだけ、ただ休むだけでも、それ自体に価値があります。すべての経験に「成長」という意味づけをしなくていいんですよね。
- 「自分の希望として選んだ働き方」は、家庭の事情が変わっても同じ選択になるのだろうか。
- 女性はなぜ、学びのための時間とお金を確保しにくい場合があるのか。経済的な制約と心理的な抵抗感はどう関係するのか。
- 男性も、学びたいのに学んでいない人が多い。男女に共通する「学びの優先順位」をどう考えるか。
- 学びの楽しさをまだ経験していない人、学びを負担だと想像する人に、どうしたら小さな体験の機会が届くか。
- そもそも学びにはどんな価値があるのか。収入、達成感、安心感、視野、人とのつながりをどう捉えるか。
- AI時代に、ただの知識の蓄積ではない「自分の専門性・経験・判断」をどう磨くか。
02 データで見る
まずは公的なデータで、今の状況を確認しておきます。
2025年平均の就業者数は6,828万人で、前年より47万人増えました。そのうち女性は44万人増、男性は3万人増。増えた分の約93.6%が女性ですS1。
女性の正規雇用者は1,341万人(前年比+42万人)、非正規雇用者は1,450万人(同+6万人)。男性は正規2,367万人(+12万人)、非正規678万人(−4万人)です。役員を除く雇用者に占める非正規の割合を人数から概算すると、女性は約52.0%、男性は約22.3%になりますS1。
単位:万人。就業者数・雇用者数・正規/非正規雇用者数は統計上の範囲が一致しないため、増減を足し算しない。非正規割合は役員を除く雇用者の人数から概算。出典 S1
「女性の働く人が増えたのは、ほとんどパートだから」は正確ではありません。女性の非正規割合は高いものの、2025年に増えた女性の雇用者は正規雇用の増加が大きいんです。また、この数字だけで「子育て中の女性が再就職したから増えた」と言い切ることもできません。
女性の就業率は2025年に15~64歳で75.3%、25~44歳で83.6%。一方で、女性の正規雇用比率は25~29歳の62.8%をピークに下がっていく「L字カーブ」が見られますS3。
働く女性が増えることと、正規雇用で働き続けられることは、別の問題なんですよね。
2025年に非正規雇用を選んだ主な理由は、「自分の都合のよい時間に働きたいから」が女性529万人、男性228万人。女性で次に多いのは「家計の補助・学費等を得たいから」285万人ですS2。
パートや短時間勤務を「自分の希望」と答える人は多いと思います。でもそこには、家事・育児・介護などの事情が混ざっているかもしれません。
「もし家庭のことを何もしなくていい状態だったら、同じ働き方を希望しますか?」と問いを置いてみると、希望と事情ははっきり分かれないことが見えてきます。
だからといって、本人が選んだパート勤務を否定したいわけではまったくありません。「本当はフルタイムで働きたいはず」と決めつけるのではなく、選択肢がいくつかあって選んだのか、選択肢が限られていたのか。そこを丁寧に聞くことに意味があると思っています。
2025年、一般労働者の所定内給与は、男性を100とすると女性は76.6。正社員・正職員に限ると78.7ですS3。
2025年の管理的職業従事者に占める女性の割合は14.4%。民間企業(常用労働者100人以上)では、係長級25.2%、課長級16.1%、部長級9.3%ですS4。
管理的職業従事者 S4 と、民間企業(常用労働者100人以上)の役職者 S4 は対象と定義が違う。賃金は一般労働者・正社員正職員の平均の比較で、一人ひとりが同じ仕事で一律76.6%という意味ではない S3
「76.6」は、女性一人ひとりが同じ仕事で一律に76.6%の賃金しか受け取っていない、という意味ではありません。また、管理職の数字は指標ごとに対象と定義が違います。
管理職に登用される女性が増えることには意味があります。ただ、14%が高いか低いか、という数字の評価だけですべてを片づけることには慎重でいたいと思っています。
内閣府の『人生を豊かにするための学びに関する調査』(2025年12月実施)は、国内在住の20~69歳の男女20,000人を対象にしたインターネット調査です。社会人経験のない学生は含まれませんS5。
この調査では、「仕事・職業キャリアに関する学び」と「暮らしを充実させる学び」を分けて聞いています。暮らしの学びには、家庭や日常生活、文化・教養、地域活動、社会貢献、健康や個人の興味に基づく学びが含まれますS5。
「意欲がある人のうち未実施」は表の値から算出。国内在住20〜69歳の男女20,000人、2025年12月実施のインターネットモニター調査。出典 S5
「女性の7割が学びたいのに学べない」は誤解を招きます。正確には「仕事・キャリアの学びに意欲がある女性の約7割が、過去1年間に学んでいない」です。学んでいない理由には自分で選んだ優先順位もあるので、全員が外の事情で「学べなかった」とは言い切れません。
仕事・キャリアの学びの「課題・困りごと」で、女性の上位は「金銭的余裕がない」32.7%、「学んでも収入アップにつながらない」19.3%、「何を学んでいいか分からない」19.1%。男性は「金銭的余裕がない」25.4%、「仕事が忙しい」20.5%、「学んでも収入アップにつながらない」18.1%ですS5。
女性の方が高いのは、家事・育児・介護で時間がない(男性との差+7.4ポイント)、金銭的余裕がない(+7.3ポイント)、何を学んでいいか分からない(+5.2ポイント)。男性の方が高いのは、仕事が忙しい(+3.3ポイント)、学んでも会社から評価されない(+2.0ポイント)ですS5。
私が気になっているのは、「お金・時間・情報がない」という直接の壁だけではありません。「ほかに優先したいことがある」「学ぶ楽しさをまだ体験していなくて、費用や負担の方が先に想像される」という面もあるんじゃないかな、と思っています。そしてこれは、女性だけの話ではないはずです。
男性も、キャリアの学びに意欲がある人の約62%が、過去1年に学んでいませんS5。
厚生労働省『令和7年度能力開発基本調査』では、計画的なOJTを実施した事業所は正社員向け60.6%、正社員以外向け25.1%。OFF-JTの受講率は正社員44.5%、正社員以外19.4%。自己啓発の実施率は正社員43.3%、正社員以外15.9%でした。男女別では、OFF-JT受講率が男性43.5%・女性29.8%、自己啓発実施率が男性40.3%・女性29.8%ですS6。
OJT・キャリアコンサルティングは事業所割合、OFF-JT・自己啓発は労働者個人の割合。白書では正規・非正規の各区分の中でも学習経験率は女性が男性より低い S5。出典 S6
「正社員は男性に多い」「正社員は学ぶ機会が多い」はどちらも事実ですが、組み合わせても、男女差のうちどれだけが雇用形態のせいなのかは分かりません。白書によると、正規・非正規それぞれの中でも、仕事・キャリアの学習経験率は女性の方が低いんですS5。
「男性はなぜ学べているのか」を考えるときは、職場の研修機会、評価、家庭での役割分担、使える時間とお金、パートナーの理解、本人の関心を分けて見るようにしたいです。男性の仕事の忙しさも、男性自身の学びを妨げている条件なんですよね。
配偶者がいる人への調査で、配偶者が自分の学びに「前向き」と答えたのは女性45.1%、男性47.8%。配偶者が「積極的に支援してくれる」人の過去1年の学習経験率は女性55.9%、男性68.9%。「否定的」な人では女性24.1%、男性21.9%でしたS5。
相関であり因果ではない。配偶者のいない人はこの比較の対象外。配偶者が本人の学びに「前向き」と答えたのは女性45.1%、男性47.8%。出典 S5
これは相関で、因果ではありません。学んでいる人に対して配偶者が前向きになった可能性もあります。「家族が応援すれば、これだけ学ぶ人が増える」とは言えません。
2022年の『生涯学習に関する世論調査』では、今後学びたい内容の上位は、健康・スポーツ39.2%、仕事に必要な知識・技能・資格38.9%、インターネットの知識・技能35.2%、音楽・美術などの趣味30.2%、料理・裁縫など家庭生活29.5%でした(男女合計・複数回答)S7。
2026年版の白書では、仕事・キャリアの学びを仕事や転職・再就職などに「いかせている」人は女性60.8%、男性67.0%。暮らしの学びを経験した人のうち、何らかの効果を感じた人は女性87.2%、男性86.9%。女性の効果の例は、日々の暮らしに役立った36.9%、興味・関心が広がった35.0%、心身の健康につながった29.1%ですS5。
過去1年間に学んだ女性のうち、暮らしの中に自分の役割や居場所が「ある」と感じる人は64.3%。学んでいない女性では43.4%でした。男性は63.1%と34.0%ですS5。
男女合計・複数回答の上位5項目。2022年の別調査で、2026年版白書と比率を直接比較しない。出典 S7
女性の効果の例:日々の暮らしに役立った36.9%、興味・関心が広がった35.0%、心身の健康につながった29.1%。出典 S5
日々の暮らしに自分の役割や居場所が「ある」と感じる人の割合。関連を示す結果で、学べば必ず居場所が生まれるという因果の証明ではない。出典 S5
たとえば薬膳コーディネーターのように、仕事にも日常生活にもつながる学びは、目的によってどちらの学びにもなります。学びの効果は、昇給や転職だけでは測れないんですよね。興味の広がり、暮らしへの応用、安心、健康、人とのつながり、達成感。いろいろなものさしで見ていいと思っています。
03 私の実感
家庭の中で短時間勤務を選んで、収入が比較的少ない場合。「これは自分が自由に使っていいお金だ」と思える感覚が弱くなる人もいるのではないかと感じています。収入を支える役割を多く担っている人の仕事関連の自己投資は、本人も周りも正当化しやすいのかもしれません。もちろん、すべての男性・女性に当てはまるという話ではありません。
自分のために数万円使うなら、子どもの習い事をひとつ増やしてあげたい。忙しい日の外食に回したい。家族旅行やキャンプの体験に使いたい。先が見えない教育費として貯めておきたい。子育て中は、計画していても「これから子どもにいくらかかるか」を予測しきれない感覚があります。そうすると、自分の学びのお金は後回しになりがちです。
誤解のないように言うと、家族のためにお金を使うことを「自己犠牲」だと言いたいわけではありません。子どもの教育費を優先するのも大切な価値観です。考えたいのは、ほかにも大切な使い道がある中で、どうやって自分の望む学びも選択肢に入れられるかです。
独身の人、子どものいない人、正社員の人、家庭内の役割を対等に分担できている人は、また事情が違うかもしれません。ただ、これは比べて確かめた結論ではなく、今まさに考えを広げている段階です。
私は今、時給で働いていて、賃金の改定は会社のルールや勤続期間などで決まります。資格を取っても成果を出しても、それが自分ひとりの努力ですぐ時給に反映されるわけではありません。同じような働き方の人は「学んだところで、どんなリターンがあるんだろう」と感じるかもしれません。
もちろん、学びは昇給や昇進のためだけにするものではまったくありません。言いたいのは、学ぶお金と時間の使い方を考えるとき、職場での評価や待遇の見通しが心のブレーキになることがある、ということです。
そう考えると、リターンはひとつではないんですよね。
- お金のリターン:昇給・転職
- 将来の選択肢が広がるリターン:ほかの仕事への準備
- 暮らしに役立つリターン:制度の理解、生活の中での判断
- 気持ちのリターン:面白さ、安心、自信
どれに価値を置くかは、本人が決めていいと思っています。
仕事や家事、育児を終えて時間が空いても、その時間を勉強に使うとは限りません。何もせずのんびりしたい、気分転換したい、子どもと遊びたい。その時間を使いたい相手や行動はたくさんあります。そもそも人は「すごく暇」な状態にはなりにくくて、ひとつ用事が終わっても次にやりたいことが待っているんですよね。
SNSで、家を整えたり、きれいな暮らしを発信したりしている人を見ると憧れます。私ももっと頑張りたい気持ちがあります。一方で、資格勉強を発信している女性の中で、子育てと学びを両立している姿は、私の目にはそれほど多く映っていません(あくまで私の見えている範囲の印象です)。だからこそ、そういう姿も少しずつ発信していきたいと思っています。
私にとっては、カフェでテキストを開く時間が癒やしやストレス発散になっています。でも、経験のない人にとっては「休日まで勉強でつぶれる」「余計に疲れそう」というイメージが先に立つかもしれません。
休むことは、学びと競争する「無駄な時間」ではありません。休むこと自体が必要です。だから「スマホや娯楽を全部削ればいい」とは言いたくないんです。
新しく学びを始めようとすると、毎日の生活に「やるべきこと」をもうひとつ足す形になって、負担が大きくなりがちです。もし自分の中で、そこまで優先度が高くないと思える時間の使い方があるなら、一度洗い出して、少し手放してから始める方法もあると思います。
実は私、体調が悪くて起き上がれない時期にスマホゲームを始めたことがあって、今もたまに遊んでいます。「この時間は必ずしも必要じゃないかも」と思うこともあれば、「本当にいらない時間なんて、ないのかもしれない」と感じることもあります。
だから言い方としては、「無駄な時間を削りましょう」ではなく、「今の生活の中で、少しだけ学びに置き換えてもいいと思える時間はありますか?」が近いです。置き換える必要がない人、余白を休むことに使う必要がある人には、学びをすすめないことも大切だと思っています。
04 私の体験
10年以上前にFPの勉強を始めた頃、社会保険、雇用保険、所得税、社会保険料、株式などの基本的な仕組みがよく分からず、未知のものへの怖さや抵抗感がありました。
学ぶことで仕組みが分かり、抵抗感が減って、むしろ「得意だ」と思えるようになりました。ときどき直面する壁を、資格や勉強で乗り越えてきたところがあります。
仕事につながる資格をたくさん取ってきた一方で、カラーコーディネーターのように「色って面白い」を知るための学びもありました。すぐにお金が返ってくるかどうかで、学びの価値を決めてはいません。
学びには、知識が増えて成果が出ることだけでなく、知らないことへの抵抗感が小さくなって、自分で判断しやすくなるという効用もあるんだと思います。
以前お話を伺った方が、ハロートレーニング(職業訓練)をきっかけに資格試験に挑戦していました。受験前は緊張したけれど、合格した喜びが忘れられず、次の試験にも挑戦したいと話してくれました。テキストを開いて、知っていること・知らないことを見つけていく過程も楽しい、と。興味があるならぜひ次も挑戦してほしい、とお伝えしました。
テキストを買うときや、合格した自分を想像するときのワクワク感も、学びの魅力のひとつだと感じています。ただ、最初の高揚感で満足して、そのあと手が止まることもあるかもしれません。
試験には、緊張、達成感、知識を見つける楽しさがあります。一方で、試験への挑戦がプレッシャーになる人もいます。資格は楽しさに出会う選択肢のひとつで、誰にとっても唯一の道ではありません。
私に合っているのは資格の勉強ですが、学び方はもっといろいろです。詩や小説で誰かの人生を追体験する。映画や音楽を楽しむ。フィールドワークに出る。趣味の場で人と関わる。運動をする。動物を見る。そこから何かを感じて、考えを少し広げたり、今までと違う見方ができたりすることも、私が大切にしたい学びです。
それでも学びを選ばず、別の人生の楽しみ方を選ぶ人がいていい。成長や目的をいつも持っていることが立派だとは考えていません。
そして、「学びの経験がない」と感じている人も、料理や子育て、仕事の工夫、人との関係を通じて、すでにたくさん学んでいるはずです。新しく何かを足すだけでなく、「もう日常で身につけてきたこと」を一緒に見つけることも、学びの支援だと思っています。
昨日なら落ち込んでいたことを、知識や経験が増えることで「あれ、そこまで大きなことじゃなかったのかも」と受け止められるようになる。そのために、必ず何かを「乗り越え」なければいけないわけではありません。
年を重ねても新しいことを学んでいる人の姿に、私は魅力を感じます。年齢を重ねた自分が、今より少し強く、しなやかで、広い視野を持っていたらいいな。その方法として、学びを人生の「うっすらとしたテーマ」にしたいと思っています。
「成長しなくても人の価値は変わらない」と「望むなら、学びは生きやすさを増やす手段になる」。この2つは矛盾しません。両方を語ることが、学びを必要以上の義務にしない支えになると思っています。
05 もう一歩深く
「子育てが忙しくて、時間があれば休みたい」という人に、「学びの優先順位が低いだけ」と説明すると、疲れや家庭内の役割分担、使える支援の有無を見落としてしまいます。そもそも学びを選べるだけの体と心の余力があるのか、も一緒に考えたいです。
学びを選ばなかった理由を、本人の意欲不足だけにも、社会の仕組みだけにも単純化しない。本人の好みと環境の条件は、お互いに影響し合っているはずです。
資格や講座、教室のような形の勉強だけが学びではありません。日々の仕事の工夫、家庭での試行錯誤、人に教わったり誰かを支えたりする経験、地域との関わりにも学びはあります。
ただし、統計でいう「学び直し」と、ここで話している広い意味の「学び」は完全には一致しません。調査の学習経験率を、人生経験全般があるかないかにまで広げて読まないようにしています。
学ぶ人を増やすこと自体を一番の目標にすると、「仕事・家事・育児に加えて勉強まで頑張るべき」という新しいプレッシャーになりかねません。支えたいのは、本人が望むなら学びに近づけることであって、今の暮らしを採点することではありません。
のんびりする時間やゲーム、SNSにも気分転換の役割があって、外から「無駄」とは決められません。本人が置き換えたいと思ったときだけ、選択肢として考えればいいと思っています。
「学びは収入に結びつかなくてもいい」と言うことと、職業訓練で待遇がよくなることを軽く見ることは違います。生活を安定させたい人にとって、賃金や働く機会が増えることは切実な価値です。趣味のための学びも、生活のための学びも、その人の目的で評価したいです。
学んで知識が増えても、職場が評価しない、勤務時間を増やせない、近くに仕事がない、といった制約は残ることがあります。「学べば解決する」と簡単に約束しないようにしたいと思っています。
独身か既婚か、子どもの有無、介護や障害、世帯収入、働き方、家計の管理方法、キャリアへの思い。それぞれで経験は大きく違います。「男性は自分に投資しやすい」「独身女性は自由」という描き方は、仮説の域を出ません。
講座の体験受講、図書館での試し読み、無料教材をちょっと開いてみる、地域の講習や趣味の活動に参加してみる。こうした小さな体験は、学びの負担感や楽しさを確かめるきっかけになるかもしれません。ただ、「楽しいと思えるはず」と決めつけないようにしたいです。
お金の負担、家庭でのサポート不足、情報不足がある場合は、小さな体験だけでは解決しません。保育や介護を代われる人、移動手段、実際の費用、職場の研修制度など、学びを支える土台の問題も見ていきたいです。
男性にも、仕事に追われて学びにくい人はたくさんいます。女性にも、自由に学びを選べる人はいます。性別だけで差は説明しきれず、雇用形態、職種、働く時間、年齢、家事・育児の負担、収入、学ぶ分野なども関係しているはずです。
「学べない女性 vs 学べる男性」という二分法より、「誰が、どの学びを、どんな条件で選べているか」という問いの方が、実態に近いと思っています。
06 AI時代
AIの使い方を学ぶことにも価値はあります。ただ、AIだけを単独で使ってできることには限界があって、専門知識や実務経験を持つ人がAIを使うことで、仕事を発展させたり、活動の幅を広げたりできると考えています。
だからこそ、自分が今まで経験してきたこと、興味を持ってきたこと、実務で培ってきたことをさらに磨いていく学びは、AI時代にも大切だと思うんです。
AIの能力は分野や技術の進歩で変わっていくので、「AI単体でできるのはここまで」と決めつけるつもりはありません。「その人の専門性 × AIの活用」に価値が生まれる場面が多いのでは、という私の見立てです。
知識を覚えるだけでなく、何が問題なのかを見極め、いくつかの可能性を考え、AIの答えが目の前の人の状況に合っているかを判断する力も大事になると考えています。
たとえば、社会保険の制度を説明できることと、その人の事情に照らして「何を確認すべきか」を見つけられることは、必ずしも同じではありません。
07 キャリア支援の現場から
「学んでみたいけれど始められない」という相談には、少なくとも五つの視点があると考えています。
「資格を取るといいですよ」を早く言うより、その人にとって学びが何に役立つのか、今学びを選ぶ余地があるのかを、一緒に確かめることが先だと思っています。
8つの問いをすべて表示
興味がある人には、講座に申し込む前に、こんな入口があります。
- 図書館で関係する棚を見てみる
- テキストの目次だけ読んでみる
- 無料講座を一度のぞいてみる
- 講座の体験会に参加してみる
- 身近な人に、学んだことを聞いてみる
- カフェで20分だけ、知りたい分野を調べてみる
費用のかからない方法から選ぶと、最初の一歩はグンと軽くなります。
一方で、学びたい気持ちはあっても今は心と体の余裕がない、費用が難しい、家族の協力が得られない、という場合は、学習計画を立てるよりまず生活を守ることが必要なときもあります。
学びの機会をつくるには、個人の気合いや時間管理だけでは限界があります。正社員以外も研修を受けられる仕組み、勤務時間内の研修、費用の補助、学びを評価する仕事の設計、キャリア相談、保育・介護の支援、地域で参加しやすい学びの場、具体的で分かりやすい情報。こうした環境づくりも同時に考えたいです。
「女性にもっと学ぶよう呼びかける」で終わらせず、「学びたいときに選べる条件を整える」方向へ、話を広げていけたらと思っています。
08 データの読み方
データや体験談を伝えるとき、私自身が気をつけたいポイントをまとめました。カードを押すと理由が出てきます。
今あるデータでは分からず、これから確かめたいことです。
- 「学ぶことより優先したいことがある」「学習情報を入手できない」の、男女別の正確な回答率(白書 特-28図)
- 職業訓練や企業内研修について、男女 × 正規・非正規 × 子育て・介護の有無を掛け合わせた分析
- 家計の中で「自分が自由に使えるお金」をどう感じているかの直接的な調査
- 子育て中の女性の学習時間・休息時間・家事育児時間を、同じ定義で比べた生活時間の調査
- 体験会や短時間の学びが、その後の学びの継続や満足度にどれくらいつながるかの実証
- AI活用で、専門知識の深さが成果をどう左右するかの実証研究
09 おわりに
いつも頑張る必要はありません。休む時期があっていいし、学ばない人生があってもいい。そのうえで、もし少し余裕があるときには、学びを人生のうっすらとしたテーマにしてみませんか。
この記事が、「学びたいけれど、なんとなく後回しにしている」あなたが、自分のペースで学びを選ぶきっかけになったらうれしいです。
SOURCES
- S1
総務省統計局『労働力調査(基本集計)2025年(令和7年)平均結果の要約』
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/youyaku.pdf2026年1月30日公表。就業者の増減、男女別正規・非正規雇用者など。
- S2
総務省統計局『労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果の要約』
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/youyaku.pdf非正規雇用を選んだ主な理由。
- S3
内閣府男女共同参画局『令和8年版男女共同参画白書 第2章 第1節 就業』
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r08/zentai/html/honpen/b1_s02_01.html女性就業率、正規雇用比率L字カーブ、所定内給与格差。
- S4
内閣府男女共同参画局『令和8年版男女共同参画白書 第1章 第4節 経済分野』
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r08/zentai/html/honpen/b1_s01_04.html管理的職業従事者、課長級・部長級等に占める女性の割合。
- S5
内閣府男女共同参画局『令和8年版男女共同参画白書 特集 第2節 人生を豊かにする学び直しへの意欲と障壁』
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r08/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html基礎調査:内閣府『人生を豊かにするための学びに関する調査』(令和7年度、20〜69歳のインターネットモニター男女2万人、社会人経験のない学生を除く)。特-25〜36図を中心に確認。参照範囲は同調査に基づく関連箇所。
- S6
厚生労働省『令和7年度能力開発基本調査の結果』(2026年7月31日公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00233.html企業調査対象7,452企業(有効回答率52.6%)、事業所7,194(54.2%)、個人20,127人(43.9%)。企業・事業所調査は常用労働者30人以上が対象。OJTは事業所割合、OFF-JT・自己啓発は労働者個人割合。
- S7
内閣府『生涯学習に関する世論調査』(令和4年7月調査、2022年公表)
https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-gakushu/2.html
https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-gakushu/3_chosahyo.html今後学びたい内容の具体的な分野。2026年白書とは別調査なので比率を直接比較しない。

